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ゲーム論説ブログ

雑感・L.A.ノワール

2011/07/27 20:51 Category:ソフトレビュー
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LAN
国は魏の時代の文人に、阮籍という人がいた。
 偽善詐術が横行する俗世を嫌い、酒が飲めるという理由で役人になった。なのでいつも酔っ払っていたが、失脚するようなへまは決して犯さなかったという。
 特に礼法に雁字搦めにされた儒家のような人を毛嫌いし、そうした人物が訪ねてくると目を白くして対応したという。
 気に入らない人を冷たくあしらうことを指して「白眼視」と呼ぶようになったのはここから来ているそう。
 阮籍の器用さはもとより、わざわざ訪ねてきてまで白い眼で見られた訪問客の困った顔を想像すると、実におかしい。

 ゲームの中に街を作り、社会を作ったロックスターゲームズが、次にゲームに取り込んで見せたのは、人間の表情だ。とうとうプレイヤーがゲームに白眼視される時代になったらしい。

 1947年。第二次大戦の残り香と、ハリウッドの繁栄と、その隙間に横たわる暗い影を抱える街、L.A.
 ロス市警の警察官コール・フェルプスは、ある事件をきっかけに腕を見込まれ、いち巡査から異例の昇進をする。
 成功者の愉悦に酔う街には事件も多い。殺人、放火、麻薬、汚職…。ロサンゼルスの闇を渡り歩くうち、不可解な関連性が顔を覗かせる。
 金が、欲が、過去が、猜疑が、彼の足元で渦巻いていた…。

 このゲームの基本は、相変わらず広大に作りこまれたLAの街を舞台にした、オープンワールドタイプのミステリーアドベンチャー。数々の事件に遭遇し、手掛かりを拾い集めて真相へと迫るというプロセスは、従来のものと何ら変わらない。
 違いの一つは、捜査対象となるものにかなり自由にアクセスできるということ。例えば銃を拾った場合、スティックを操作してアングルを変え、その裏に刻まれたシリアルナンバーをチェックしたり、弾倉を開いて発射された数を確認したりできる。
 時には直接事件と関係ないものや、隠された文字や扉を見つけないといけない場面も多く、なかなかに頭をひねらせてくれる。
 そして集めた手掛かりを元に、容疑者や参考人に尋問を行うのだが、ここがこのゲームの肝である。
 質問したことに対し相手が返答する際、相手は嘘や隠し事をすることがある。これを見抜くため必要なのが、相手の所作や表情を見ることなのだ。
 この「見る」というのがなかなかの曲者。一瞬の目配せや手の動き、それらを読み取ったり手掛かりと照らし合わせたりして見破る。成功すれば真相に近付くが、外せば遠ざかっていく。
 CG離れした生々しいほどの表情変化が描く心情を読み取り、深層を抉り出していく手応えは、まさに次世代のミステリーゲームそのものだ。
 そしてもう一つゲームを盛り上げてくれるのが、40年代から50年代という、まさにゲームの舞台になった時代に生み出された、酒と銃と男と女をテーマにした映画様式「フィルム・ノワール」をベースにした演出だろう。
 斜めに打たれたゴシック体のタイトルテロップ。クラシックカーのカーチェイス。犯人の姿をちらりと見せながら、魔の手にかかる美女の悲鳴をバックにフェードアウト…。
 その手の映画のマニアなら泣いて喜ぶオマージュに溢れた世界で、丸みを多用したデザインのクラシックカーを乗り回し、皺のないスーツを泥だらけにしながら犯人を追いかければ、気分はすっかりハンフリー・ボガード…いや、ラナ・ターナーか?

 ともあれ、磨き上げられたグラフィックを「手掛かり」の一つに昇華させた、現代だからこそ可能になった推理アドベンチャー。シナリオに若干のブレがあるものの、コマンド総当りでクリアできる推理モノに飽きてしまったあなた、是非一度お試しいただきたい。
 容疑者に白眼視されるプレイヤーの困った顔を想像すると、実におかしいので。
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